単なる言葉遊びです。
私には詩才がまったくありません。短歌を詠(よ)んだことも、俳句を詠(うた)ったことも、そんな高尚な経験など皆無です。
以前、『人生 ご破算で願いましては ゼロと空の生き方』という本を自費出版で上梓したことがありました。そのはじめにの言葉で、
老いた 人生を 降りる
と書いて、はっと気づきました。これは三・五・三ではないか、と。
短歌は五・七・五・七・七、俳句は五・七・五の定型を基調としています。これをもっと短縮して三・五・三で何か面白い言葉遊びができないかと思いついたのです。たとえば、
鳶(とび)が 雨上がる 空に
澄んだ 空に雲 白く
生きる ままならぬ ままに
墨絵 枯木(こき)にモズ 一羽
これは単句です。作ろうと思えば連句もできます。
春の 花は散り やがて
夏に 草が生い 茂る
秋の 訪れに 実り
終(つい)に 冬枯れて 枯淡(こたん)
枯淡とは、広辞苑によりますと、さっぱりしているなかに深いおもむきのあること、例に「枯淡の境地」とあります。心境が淡々としている様子のことでしょう。
七五調は、和歌の基本韻律です。七世紀後半から八世紀後半にかけて編纂された現存するわが国最古の歌集『万葉集』以来、千数百年間にわたって受け継がれてきた日本固有の文化です。
豆知識です。短歌はもともと和歌の一種だったものが、次第によく詠(よ)まれるようになり、平安時代以降、和歌は主に短歌をさすようになりました。俳句は俳諧の連歌の発句をもとに、それが室町時代に独立して、江戸時代に盛んに詠(うた)われるようになったものです。
いずれにせよ、七五調は、すでに日本人の血肉になっています。いくら軽薄短小の時代だとはいえ、五三調を提案しても、それが受け入れられると期待するのはまったくの誤算(ごさん)です。でも、アプリのラインでは「今、どこ?」「いつ、会える?」「いいね」といった単語もどきの会話がふつうに楽しまれています。ですから、あながち意外とはいえないかもしれません。ともあれせっかく思いついたのですから、自分一人だけでも、どうなるか少し遊んでみることにしました。
ただ名前がないと形になりません。そこで、短歌と俳句の頭と尾を結びつけて「短句」と名づけようと思ったのですが、調べてみると、この言葉はすでに使われていました。短歌の上の句五・七・五を長句、下の句七七を短句と呼ぶ習わしがあります。やむを得ません。とりあえず、そのまま「五三短律句」と名づけることにしました。語呂が悪いので、もっと短くて良い名はないか、と目下思案中です。
作句の極意は、ブルース・リーが「燃えよドラゴン」で吠えたあの名セリフ「考えるな、感じろ」でしょう。句はおおまかに「考えを言葉にする句」と「感じが言葉になる句」の二種類に分けられます。前者を「考えた句」、後者を「感じた句」と呼ぶことにします。ただし、句作において、「考える」と「感じる」とは、二つに画然(がくぜん)と区別できるものではありません。
芭蕉の名句「古池や蛙飛び込む水の音」、「閑さや岩にしみ入る蝉の声」は何度も何度も推敲を重ねた結果だと聞きました。最初は、感じたまま直観的に言葉にしたのでしょうが、その後の推敲には当然、「字句をさまざまに考え練る」過程が介入します。ですから、「考えた句」と「感じた句」とに分ける場合には、「どちらかといえば」ということになります。
とはいえ、やはり人に何かを感じさせるには「考えた句」より「感じた句」の方がよいでしょう。ところが、困ったことに、私が作る句はどれもこれも教訓的な「考えた句」になってしまうのです。現役時代は心理臨床家の端くれであったにもかかわらず感受性に乏しく、長い大学の教員生活のなかで、理屈っぽくものを考える習性が身についてしまったのです。
以下、参考までに、愚作を紹介します。そのほとんどは「考えた句」です。格言や標語みたいなものばかりで、例示にはちょっとまずい。しかも、ただ理屈っぽいだけでなく、
まずい 抹香 くさい
のです。愚作の句が「まずい」のはあたりまえのことです。私には言葉に対する美的情操がもともと欠落しているのですから。句がいいか悪いか、そんなことはぜんぜん気にしないでください。そんなことにこだわっていると、人間が小さくなります。
そうではなく、句が「抹香臭い」のが「まずい」のです。私の作句には抹香臭く教訓的なニュアンスが拭いきれません。長い人生においていつも仏教を中心に「人としてのあり方、生き方」に深い関心を寄せてきたせいです。いくら臭みを避けようと努力しても、どうしようもなく自分や自分の生き方が滲み出てしまいます。ご容赦ください。
しかし、これでは、ここで提案する「五三短律句」は仏教の話かと誤解されてしまいます。誤解されては困ります。五三短律句は仏教とはなんの関係もありません。何か意味ありげで面白ければ何でも構わないのです。
私の経験に少しでも興味をもたれた方は、一緒に作句してみませんか。三・五・三の定型を原則としますが、一句に一字程度の字余りや字足らずには目をつぶりましょう。その方が作句に幅がでます。
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