「親の言うことは聞くな」という言うこと聞かせ方。これは家族療法で用いられる逆説療法です。逆説療法は一般に「症状処方」というやり方をとります。また、これはふつうポジティブ・リフレーミング(肯定的意味転換)と併用されます。リフレーミングと逆説的な症状処方とはいわば双子のきょうだいで、ワンパックになっています。
たとえば、子どもの反抗に手を焼いて親が相談にみえたとします。親の言い分は大抵こうです。「今までは親の言うことをよく聞く素直なよい子だったのに、最近急に荒れだして激しく反抗するようになり、困り果てています」。「で、そういうとき、お子さんにどう接しておられるのですか?」と尋ねると、「反抗されると怖いので、子どもの言うことにはできるだけ逆らわないようにしています」。このはれものに触るような親の卑屈な態度がかえって子どもを苛立たせていることに親は気づいていません。反抗させないようにする親の解決努力が反抗を生むという逆説的現象が起こっているのです。「問題は問題ではない。問題にするのが問題である」。どんな小さいことでも問題にすれば大問題になります。逆にどんな大きいことでも問題にしなければ問題にはなりません。
「今まで素直なよい子だったのに急に反抗的になって困っています」と親が悩みを訴えられたとき、「それはよかったですね。やっと反抗されるようになりましたか。思春期の反抗は成長の証ですよ。お子さんは親離れしようと必死でもがいているのです」と答えるのがポジティブ・リフレーミングです。だから、「もっと反抗させましょう。『親の言うことは聞くな』と平然と言ってください」。これが「症状処方」です。「親の言うことは聞くな」と言われて、これに反抗すると「言うことを聞く」ことになりますし、言うことを聞けば、親の命令に従って反抗することになります。子どもはどうしようもない窮地に追い込まれます。これを逆説命令による治療的ダブルバインドといいます。子どもはこのダブルバインドを乗り越えながら成長していくのです。