禅マインドフル・サポート実践法について

はじめに

(3)施設システムのあり方

 私はこのシステム療法のやり方に長年親しんできたので、理事長として施設運営をする場合にも、つい施設を一つのシステムとして捉えるくせが習い性となっている。

 現に今、“問題とみなされる”出来事、たとえば、施設内で利用者虐待というような出来事が縁起したとする。ふつう、まず問題にされるのは、当の職員の生まれ育ちによる個人的な人格特性である。それは重要な縁の一つかもしれない。しかし、より重要な縁として施設システムが深くかかわっていることを知らねばならない。だから、問題が起こったとき、たとえ直接に関与していなかったとしても、管理者の管理責任が厳しく問われるのである。

 施設システムとは、施設で日々くり返し起こっている職員間、あるいは職員と利用者間の相互作用パターンの全体のことである。それは職員一人ひとりの毎日の働き方によって日々新たに自己創出される組織のあり方のことである。そこにおのずから施設全体の雰囲気、あるいは施設文化といったものが醸し出される。施設文化には、職員の人柄と日常の生活態度が反映される一方、職員は自覚しないままその色に染まってしまう。施設文化は当の施設には気づかれない。が、外部のまなざしにはっきりと映し出される。それが怖いのである。

 事故が軽微な場合、施設システムに多少のゆらぎが生じるかもしれないが、たいていは施設ホメオスタシス(定常状態維持機能)が働いてもとの状態に戻る。軽微でなければ、施設システム自体が変化を余儀なくされる。たとえば、サビ管の交替や職員の配置転換、あるいは仕事内容の変更等である。最悪の場合、施設システムそのものが消滅してしまうこともあろう。

 “きずな”の事例検討会では、担当職員が選んだ問題とみなされる事例について、利用者の行為、職員の対応、それに対する利用者の反応、その時の職員の考えや感情、利用者の気持ちの推測等々、一つひとつに注意の焦点を当てて、時系列的に細かな検討を行っている。施設システムに対する職員の「気づきの感性」を高めるためである。

 福祉サービス事業における差別解消や虐待防止以前に、より Well-Being なサービス提供をめざす職員の資質向上と施設システム改善のための研修の必要性は言を待たない。