禅マインドフル・サポート実践法について

正宗分(しょうしゅうぶん) 禅マインドフル・サポート実践法

(3)提言の趣旨

 本書で提言する「禅マインドフル・サポート」は、禅の行法を拠りどころとして、今この一瞬一瞬の支援者としての自己の行為に気づき、利用者への心のこもった支援ができるようになるための技法である。支援員自身が自分のストレス、不安、恐れ、怒り、疲労、苛立ち、無関心等に気づかないまま利用者の支援に従事すると、それはとても危険である。少なくとも、良質の支援ができないことは必然である。しかし、利用者へのマインドフルな支援というのはあくまでも結果であって(とても重要な結果ではあるが)、その実践法の目的はあくまでも支援員自身に対する自己研鑽の理論と技法を提供することにある。肝要なことは、おだやかな気づきと気配りのある支援員(マインドフル・サポーター)の育成である。「禅の行法」は、そのための自己修練法である。

 仏教思想の根本は自他不二である。支援者と利用者とがお互いの相互関係を通じて一体であるということが、「支援者自身の自己への気づきと受容」がそのまま「利用者への気づきと受容」であるということの根拠である。「自己への慈しみ」は即「他者への慈しみ」なのである。この慈しむ心を「慈悲」という。禅マインドフル・サポートの実践が重視されるのはこの意味においてである。禅マインドフル・サポートは、自利利他の布施行なのである。支援者自身と利用者へ「慈しみ」を布施するのである。

 もし参加者がこのプログラムで身に着けた技法をホームワークで誠実に実践しつづけてくれるなら、仕事上のストレスや不安を低減し、苛立ちや怒りを抑制するばかりでなく、同じことのくり返しにすぎないと感じていた毎日の退屈な仕事を、“ただならぬ”ことと日々新たに気づき、新鮮な気持ちでその仕事に意味と価値、あるいは働きがいを感じることができるようになる。その仕事の充実感が、ひいては人生を豊かにすることになるのである。